現在、映像作品をアーカイブするフォーマットとしてIMF(Interoperable Master Format)という方式があります。
IMF(Interoperable Master Format)、その呼び名、インターオペラブルマスターフォーマットと、カナ表記するには中々勇気のいる名称ですが、このフォーマットを扱い、映像作品を管理するノウハウを身につけることで、個人や小規模スタジオでも、これまでのテープメディアや光ディスクメディアによるデータアーカイブより効率的にマルチメディア対応をすることができるようになります。
- IMF(Interoperable Master Format)とは?
- IMF(Interoperable Master Format)で何ができる?
- IMF(Interoperable Master Format)が扱えるシステムやアプリケーション
IMF(Interoperable Master Format)とは?
映像のIMFは、詳しく説明すると分かりにくくなってしまうので、簡単に説明すると、完成した映画などの映像作品に紐づく全てのデータ(画像、映像、音声、字幕等)を、規格で定められたディレクトリ構造に整理してまとめたデジタルデータのパッケージを指します。
IMFはDCP(デジタルシネマパッケージ)からの規格を参考にして作成されており、取り扱いイメージや構造も非常によく似ています。
IMFの規格は、SMPTE ST 2067*1 で定義されています。
規格の詳細については脚注のSMPTE公式サイト*2にある個々のページを参照しながら学んでいくとして、IMFを扱えるようになると、多くの場所や保管費用を要するこれまでのアーカイブメディアに比べて、費用を抑えて、長期間、作品のマスターデータを保存しておくことが可能になる非常に高い可用性を備えたフォーマットです。
IMF(Interoperable Master Format)で何ができる?
IMFは、完成したコンテンツのアーカイブに適したフォーマットになっており、さらに、必要に応じてメディア媒体に適したデータの書き出しが簡単にできるような仕様になっています。
つまり、基本的には作品に関する全ての素材がIMFでパッケージされた状態*3が1番望ましい状態といえます。
また、NetflixではIMP(IMF方式でパッケージされたファイル群のこと)による作品制作から納品までのワークフローを採用*4していたり、そのほか、大手の映像制作及び配信プラットフォームのワークフローでも普通に利用されています。
日本では、あまりIMF(Interoperable Master Format)に関する情報がないこともあり、IMFによるコンテンツ運用が広がっていないように感じる部分がありますが、日本以外ではIMFによるコンテンツ管理が普通に行われています。
IMFの取り扱いノウハウは映像制作事業に役立つ
IMF(Interoperable Master Format)は日本の場合、積極的にIMFによるコンテンツの運用や、IMFを取り扱っているところと一緒に仕事をしないと運用する機会がないフォーマットです。
海外映画やドラマなどの作品買付けに関わると、買い付けたコンテンツを預かるときのフォーマットにIMFやDCPの項目が普通に記載されていています。
例えばBtoBでビジネスをしていて、メディア変換や光ディスク向けオーサリングなど、今までのように、テープメディア、あるいは映像と音声など、それぞれの単一ファイルを映像メーカーから預かるよりも、IMFを扱えるようになれば、映像メーカーのコンテンツ管理や素材管理の手間や費用を減らすことにもつながるため、映像制作関連の事業を発展させるための重要なフォーマットになっていきます。
IMFでマスターコンテンツを運用することでメディア変換が容易になる
IMFによるコンテンツ管理を始めたり、または映像制作プロダクションとしてIMFの運用に対応できるようになると、DCP以外にも、放送用やDVD,Blu-rayなどの光ディスクメディア、各プラットフォームへの配信用データ書き出しを容易に行えるようになります。
また、例えば、日本作品を海外に出品にしたり販売展開して行く時に、展開先の国の規約や文化に合わせて編集したタイムラインのデータだけをパッケージに入れておくなどができるので、何個もマスターデータを作り出す必要がありません。
必要に応じて、必要な部分をつなぎ合わせて、必要なコンテンツ部分だけを書き出せるようにできるのがIMF(Interoperable Master Format)です。
メディア変換を請け負う側としては、IMFをマスターデータとして預かるようになれば、対応できる映像制作スタジオやプロダクションはまだ少ないので、長い期間、さまざまなメディア変換を請け負う間は繋ぎ役として活躍してくれます。
IMFはクラウドストレージでも扱える便利なフォーマット
IMF(Interoperable Master Format)は、HDDやSSD、LTOに保存して運用するのでも良いのですが、クラウドストレージを活用して運用することも可能です。
筆者が起業してすぐ、DCP(デジタルシネマパッケージ)を扱う事業の立ち上げを手伝っていた当時、事務所内ではテープメディアやラベルもないHDDで納品されたりと事務所内がごちゃごちゃした時期もありました。
事業が立ち上がって、現在はスタジオとしての引っ越しも完了したので、マスターコンテンツはないのですが、引っ越し先でも十分に広いところで事業展開できるわけではなかったので、その時にIMF(Interoperable Master Format)でのコンテンツ運用を標準で扱えるように、ワークフローの構築とオペレーションのマニュアル化を手伝いました。
小さなポストプロダクションスタジオでは、とにかく機材と合わせて預かったマスターコンテンツが場所をとるのでコンテンツの管理や保全に不安がつきまといます。
しかし、クラウドストレージを専門に扱っているクラウドストレージサービスを活用すれば、自社スタジオで保管するよりも、よっぽど安全にコンテンツを保全することが可能です。
そのランニングコストが物理メディアで保管するよりも高い費用と指摘されたこともありますが、人や管理用の什器購入、本来は行うべきコンテンツ保全に必要なセキュリティ等にかかる投資金額を考えれば、トータルでは費用を抑えて堅牢なシステムでコンテンツを保管できるようになるので、特別に契約上問題がなければ、筆者の場合はいつも、この方法を進めています。
IMF(Interoperable Master Format)が扱えるシステムやアプリケーションには何があるのか?
IMF(Interoperable Master Format)のネイティブなエンコードやデコードに対応しているシステムでおすすめできるものは3つあります。
CLIPSTER
ローデシュワルツ社のCLIPSTERは、DCPマスタリングやIMFマスタリングにおける業務用マスタリングシステムとして高価な部類に入りますが、個人的には「CLIPSTER」で作業してるというだけで信頼を得られるシステムなので、憧れのシステムです。
IMF Studio
IMF Studioは、ドイツのFraunhofer(フランフォーファー)社が提供しているIMFマスタリングが可能なアプリケーション群です。
IMF CreatorとIMF Playerのふたつのアプリケーションで構成されており、IMFマスタリングのパートに特化しています。
DaVinci Resolve Studio
DaVinci Resolve Studioは、Blackmagic Design社が提供している、DaVinci Resolveの有償版にあたるラインナップです。
このラインナップに、IMFでのエクスポートが含まれおり、撮影から撮影素材の編集、カラーグレーディングからフィニッシングまで行う場合は、DaVinci Resolve StudioでIMFマスタリングまで扱うのも1つの方法です。
日々、無償版のDaVinci Resolveで映像制作をしている方は、IMFマスタリング対応を検討するきっかけとしてDaVinci Resolve Studioにアップグレードしてみるもの良いかもしれません。
IMFだけでなくDCPのラインナップも提供されている
これら上記で紹介した3つのシステムやアプリケーションを開発し、提供しているメーカーは、IMF(Interoperable Master Format)だけでなく、デジタルシネマパッケージ(DCP)*5のマスタリングも可能なオプションやシステムを提供しています。
デジタルシネマパッケージ(DCP)は、コンテンツが1番初めにお披露目される劇場用フォーマットで、それらの素材をIMF(Interoperable Master Format)で運用できるオペレーションノウハウが構築できれば、それだけでも新しい事業として展開することが可能な分野になります。
これらのフォーマット規格に関する情報は、映像製作において撮影時の段階から役に立つ別パートの情報と深く繋がっているので、スキルアップをする上で覚えておけばかなりお得です。
IMF(Interoperable Master Format)から始まる新規事業
IMF(Interoperable Master Format)は、長い間コンテンツマスターとして利用されているテープマスターから、段々と切り替わっていく過程で利用される重要なフォーマットになっていきます。
個人、あるいは小規模の映像製作スタジオだとしても、全ての工程をデジタルデータで完成できる環境においては、データを取り扱うノウハウさえ覚えてしまえば新規事業として、あるいは、取り扱えるサービス拡充のひとつとして、十分に価値のある分野であり、フォーマットです。
世界中のコンテンツメーカーや配信プラットフォームと繋がれる機会にもなるので、習得してしまうことをおすすめします。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
IMF(Interoperable Master Format)に関する脚注や出典および参考情報の一覧
- ST 2067 – Interoperable Master Format|IMF規格の概要 ↩︎
- SOCIETY OF MOTION PICTURE AND TELEVISION ENGINEERS|SMPTE ↩︎
- パッケージングされたIMFのことをIMPと呼びます。 ↩︎
- BacklotにおけるIMF納品手順|Netflix ↩︎
- デジタルシネマパッケージを制作する色々なマスタリングツールを紹介 ↩︎