会社に従業員として勤めていると、ちょっとした打ち合わせや面談、定例会議を含めて、経営者の口から「経営者目線」や「経営者視点」で考えてほしいと、仕事や業務をこなす姿勢について言われる事があります。
これらは、特に中小企業や小規模事業者に分類される規模の会社で多く見かける光景ではないでしょうか。
現実的に、言われた側の立場と、その言葉の視座に関して差がある場合には、受け取り手として注意が必要です。
持っている情報や権限、そして待遇や報酬、事業が成功したときのメリットなども含めて、経営者と従業員としての立場の差は明白になっています。
「経営者目線」や「経営者視点」で要注意ってどういうこと?
また「要注意」といっても、注意してどうすれば良いのか?っていうところもあります。
少なくとも、筆者の場合は「経営者目線」や「経営者視点」という言葉を使った場合に、その前提条件や、具体的に考えを持って、何についてそう考えれば良いのか?
という部分について、経営者自身が明確にその場で説明できないようであれば、それは単に経営者の立場で枕詞として簡単に使っているだけであったりする場合で、「なんとかしてくれ」と言っているように捉えられても仕方がないことを簡単に言っているのです。
「経営者目線」や「経営者視点」という単語を使って話をする経営者
筆者の場合、会社員時代を経てから起業して、以前ほどのペースではないのですが、仕事の関係上、多種多様な組織の全体に関わりながら、特に新規事業に関して手伝いをしてきました。
現実として、人は無意識に自分の立場からでの目線でしか話せなくっている事が多くあります。
そんな中でも、上手くいってしまうパターンと失敗するパターンというのはあって、簡単ですが紹介します。
「経営者目線」や「経営者視点」が上手くいくパターン
1つ、事例としての「経営者目線」や「経営者視点」で上手くいくパターンとしては、事業の経過は聞きつつも任せたら口は出さないというパターンです。
経営者として、もどかしい部分を感じながらも、失敗を許容できる範囲や埋没コスト*1を把握しておいて、事業の行先を従業員に任せていく組織文化や価値観が浸透している場合です。
「経営者目線」や「経営者視点」が失敗するパターン
逆に、失敗。というか、その言葉が全然届かない、みたいな状況に悩んでいる経営者も多く見てきました。
その場合、筆者の経験でしかないですが、往々にして、その言葉は単に予算達成などの数字を達成するために、言葉を安易にして恫喝を入れつつ利用されるようなパターンです。
筆者の場合、よく「暖簾をくぐれば」という言い方とするのですが、この場合で食事に付き合ったりすると、互いにものすごい不満だけが噴出して、根本的な問題発見や本質的な解決をするための時間に大きく影響する事が多々ありました。
今回は、特に非上場企業である中小企業や、小規模事業者向けに、「経営者目線」や「経営者視点」という言葉が出てきた時に、なぜ上手くいくパターンとうまくいかないパターンがあるのか、その共通事項について書いていきます。
互いの持っている会社情報に関して情報量が違いすぎる
「経営者目線」や「経営者視点」という言葉の背景にある、互いの違いで1番大きいのは互いが持っている会社の社内に関する情報量です。
細かく言うとすごく沢山あるのですが、簡単に3つ挙げるとしても
- 一般的に「PL/BS/CF*2」と言われるような会社の業績に関するリアルな情報
- 会社と経営者(特にオーナー企業)で行なっている従業員の知らない都合の部分
- 経営者視点からみた理想の組織構成と従業員が感じる理想の組織構成の齟齬にある背景に関する情報
業態や事業によって、固定コストや変動コストの考え方や、予算や達成度の確認、指標等をわかりやすくするために、仮の粗利計算方法などを設定するところもあると思いますが、この時点で、すでに経営者と従業員の間で共有する情報の解像度に違いが出ます。
とはいえ、筆者の経験上、会社に関する全ての情報を従業員に公開している会社も少ないと思います。
非上場企業であっても、会社法上、公告しなければいけない情報があるので、そこで一部の情報を知ることもできますが、正直、手間がかかります。
(とはいえ、自分の会社の決算情報を少しでも知っておくことは重要です)
(計算書類の公告)
第四百四十条 株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
会社法|e-GOV法令検索より
経営者と従業員という権限の違い
「経営者目線で仕事について考えてほしい。」
「経営者の視点で物事を捉えてほしい。」
これは、従業員側から見れば、理解をしようとはしても、行動へ変えていくためには、ほぼ不可能という認識です。
まず、従業員が、言われた通りに一生懸命に頑張ろうとすると、あらゆる方向から思いもしなかった、様々な問題が起きるようになります。
知らない間に社内に存在している既得権益や利害関係の均衡を崩しかねない事柄に触れていたりして、進行を邪魔されたり、新規事業の立ち上げにおけるプロセスの中で、色々な形で阻まれる事もあるでしょう。
誰もが、それらをクリアしながら進めていくための高いコミュニケーション能力をもっているとは限らないですし、そもそも、その過程では多くの判断していきながらその場で決断や決済をする権限の委譲が必要です。
現状の業務でいっぱいの中、経営者目線で改善をしようとして様々な準備やステップを経て、それでも、明らかに会社にとってメリットのある改善でも、その改善案が採用されるとは限りません。
その時、言われた通りに一生懸命頑張っている人ほど、多くの複雑な感情や思うところを抱える状況になっていきます。
「経営者目線」や「経営者視点」が可能なら相応の待遇が必要
「経営者目線」や「経営者視点」で事業の改善、新規事業の立ち上げなど、会社に大きく貢献することのできる従業員がいるとなれば、その言葉は、その人だけに真意が伝わるように時間をかけて、なるべく同じ解像度になるように、事業や会社全体に関する情報共有、ミッションがうまくいった場合の具体的な待遇のイメージ。
特に、どこまで自分で判断して進めて良いかの判断基準作り、新規事業などであれば、期間や投資できる予算額、既存業務との並行であれば各リソースの配分とサポート体制、プロダクトチームの構成案など、そもそも「経営者目線」や「経営者視点」という言葉が必要ないくらい、綿密なコミュニケーションを、従業員と経営者の間で交わすことになるでしょう。
もともと、例えば、1人で新規事業を立ち上げて、事業規模を1億円〜10億円にしていくようなことは、不可能とは言いませんが、経験上、そのチームだけでなく、さらに他部署の力も借りて進めなければ新規事業の立ち上げを成功させることは無理だと考えている方です。
しかし、実際の立ち上げ過程の中で、自分に対する成功報酬と経営者が得るであろう成功報酬の釣り合いは1:1で考えがちです。
このとき、当然ですが経営者より従業員が得られるメリットは少ないと感じるのが常になります。
あくまでも一例ですが、このような立場の違いや価値観のズレが、後にお互い、人任せ気味になったり、従業員が事業立ち上げを経験したうえで次のキャリアへ進んでいったり起業したりする要因にもなったりします。
したがって、この辺りについてはハッキリとミッションなりプロダクトが成功したときの具体的な待遇などに関して常に齟齬が出ないようにしておくのが無難です。
「経営者目線」や「経営者視点」は実際に経験しないと分からない事がスゴく多い
思い切り主観的な書き方ですが、「経営者目線」や「経営者視点」という言葉自体は、会社にとってスゴく重要な価値観だと思います。
しかし、筆者自身も実際に起業し、法人化して事業を運営するまで、会社員(従業員)だった時には気づかず、見えていなかった(あえて見ようとしなかった??)ことがたくさんありました。
そんなことから、経営者側の視点だけで「経営者目線」や「経営者視点」について従業員に理解を進めてもらおうと考え、頑張ってもらうには、あまりに簡単に言ってはいけない単語だと考えています。
個人的には、いつもこのあたりの話を聞いた時には、経営者の立場の方々含め、自分が従業員であった時の気持ちや感情を思い出してもらっています。
とはいえ、筆者が手伝ってきた事業の顧客には、昭和後期の経済右肩上がり時代を経験してきた経営者の方々も多かったので、根性論や会社に貢献することが当たり前である理屈が強く染み付いてしまっていることも多かったです。
今は、経営者のゴリ押し成功体験に基づいて、何か売りに行ったり、何かを作ればとりあえず売れる時代ではないので*3、特に起業前後は、経営者のモノの見方に口を出して怒鳴られることもあったり、難しいとは知りつつも、それでも、物事を進めていく上で経営者の決済や判断で時間だけが過ぎて行かないようにしていました。
という、書いてみたらただの体験談になってしまった話ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。