WEBメディアの数が増えるにつれて、ライターやWEBライターの活躍できる場が増えました。
しかしライターなど、フリーランスを悩ませるのが「契約形態」の問題です。
多くの場合、記事納品の前に業務委託契約書が交わされますが、ライター側が確認を怠ると、劣悪な条件で働かされる「危険」があります。
契約後で「こんな契約条件だと知らなかった、聞いていなかった」と訴えても、こちらの言い分は受け入れてもらえないでしょう…。
最近は、複雑で巧妙な言い回しによって、複数の条項に上手く縛りが掛かるような契約書が増えています。
一見、言葉は柔らかいのですが、書いてある内容を読み説いていくとかなり強烈な縛りや、不利な状況になる内容が書かれている契約書が普通に提示されます。
そこで今回の記事では、ライターが契約トラブルに巻き込まれないよう、業務委託契約書での注意点や交渉ポイントを詳しく解説します。
今WEBライターとして働いているアナタ、これからWEBライターを目指す方は必見です。
- 業務委託契約書とは?
- ライターの雇用形態と契約書の中身
- 業務委託契約書の交渉ポイント
ライター増加と契約トラブルの背景
令和二年、内閣官房が実施した統一調査によると国内のフリーランス人口は「約462万人」に上ることが分かりました。
そのうち、フリーランスを本業としている人は約214万人、副業で働いている方は約248万人との試算も出ています。
出典:「フリーランス実態調査結果」 (令和2年5月 内閣官房日本経済再生総合事務局)
また、民間の調査によると、フリーランスの数は既に1,000万人を超えているとのデータもあります。
参考資料:『新・フリーランス実態調査 2021-2022年版』発表
また2020年〜2021年には「不況」のあおりから、さらにフリーランスへ転身する人の割合が増えています。
フリーランスの中でも、特に人気が高いジャンルが「クリエイティブ系」です。
クリエイティブ系には、WEBデザイン、イラスト、フォト、ライター業などが含まれていますが、特に人気が高い業種として「ライター業」が上がっています。
ライター業に人気が集中しているのは、【WEBメディアの増加、初心者でもハードルが低い、副業で取り組みやすい】等の理由があります。
実際にクラウドソーシングのサービスでは、WEBライターとして登録するフリーランサーが増えています。
その一方で、案件に対して応募の数が多すぎるため「採用されにくい」状況が続いています。
ライターの数が増えすぎると、一部「安くても仕事をしたい」というライターがいることから、記事報酬は以前よりも安く、買いたたかれることが多くなっています。
例えばクラウドソーシングで案件を見てみると、1文字1円にも満たない仕事が多く、中には1文字0.1円という低い単価で発注する業者もいます。
ライター案件で、特に気をつけたいのが、契約書の内容です。
WEBライターとして活動していると、WEBメディアから声が掛かることがあります。
またアフィリエイトサイトを運営している個人や企業から「記事が欲しい」という声も掛かりやすくなりますが、契約書をよく確認しないと後々、契約トラブルに発展する場合もあります。
実際に知り合いの弁護士は、WEBコンテンツに関する契約トラブルが「ここ数年急増している」と話をしており、「契約書の作成は重要」とアドバイスしてくれました。
ライターが契約書で注意したいポイント
ライターが契約書で注意したいのが、以下の三点です。
- 責任が重すぎないか。
- 著作権や著作物の権利は、納得できる内容か。
- 報酬や支払い条件は、妥当かどうか。
発注される側(=WEBライター)は、文字数や単価などの依頼内容だけでなく、記事納品した後の義務や賠償責任について、内容を何度も見直しましょう。
自分に不利な内容や、違法性のある契約を結ばされている場合は、仕事を受けない、または契約内容を書き直すよう交渉してください。
内容を確認する前に「同意」しない
最近では、会員登録や契約、アプリのダウンロードに至るまで「契約事項」を読まずに、同意ボタンを押す人も多いのですが、内容を読まずに契約をするのは危険な行為です。
『ライター』として仕事をする以上、契約書のトラブルに巻き込まれないよう、内容をきちんと把握し、納得できる契約のみ「同意」やサインをするよう心がけましょう。
業務委託契約書とは?
業務委託契約書(ぎょうむいたくけいやくしょ)とは、企業が第三者に委託する際、交わされる契約書のことです。
業務委託契約書とは
“業務委託契約書とは業務委託契約をするにあたり、双方合意の上で、取り交わす契約書である。多くの契約及び契約書は民法で定義されているが厳密には業務委託契約書は民法上、定義は存在していない。よって、業務委託契約書を締結において重要な事は、業務範囲を明確にする事である。”
出典元:業務委託契約書とは(創業手帳)より一部抜粋
業務委託契約書の書面には、委託される業務内容や条件について書かれていますが、民法など、法律で義務付けられた書面ではありません。
このため書面の内容などは、作成した側の自由度が高く、場合によっては発注される側にとっては、不利な内容や条件が書かれていることもあります。
また署名や捺印をすると、業務委託契約書に法的効果が伴うほか、口約束についても一定の契約が成立するケースがあるので注意が必要です。
ちなみに業務委託契約書の雛形(サンプル)は、厚生労働省のサイトで確認できます。
参考リンク:契約書の参考例(厚生労働省)
ライターが知っておきたい、業務委託契約書の「基本契約」について詳しく解説しているので参考にしましょう。
ライターの契約形態
WEBライターの契約形態ですが、大きく【請負契約、委任契約、準委任契約】の三種類に分類されます。
請負契約とは、約束されたものやサービスを納品すれば報酬がもらえる契約のことです。
対する、委任契約や準委任契約とは、報酬をもらった側が、報酬に見合った働きや努力、結果を出すためにベストを尽くす契約のことです。
例えばライターの場合、請負契約で仕事をするケースがほとんどですが、記事作成とSEO施策の両方を依頼された場合には、後者の「準委任契約」を結ぶケースもあります。
業務委託契約書には、どのような形態で契約を結ぶのか、書面の内容を確認しましょう。
業務委託契約書の目的
業務委託契約書は、依頼主と受注側(=フリーランス、WEBライターなど)がトラブル無く、円滑に仕事が進められるよう、業務委託の内容をお互いに「確認」する目的で書面が作成されます。
契約書を結ばないまま仕事をすると、後になって「聞いていた内容とは違う」「報酬の条件が少ない」などのトラブルが起こりがちです。
しかし業務委託契約書があれば、どのような条件で業務が発注・受注されたのかが明記されます。
「言った/言わない」などの話にならないよう、業務委託契約書が交わされているのです。
ライターが知っておきたい!業務委託契約書の内容
業務委託契約書で記載されるのは、業務目的や業務内容、報酬や費用、契約期間や納品方法、成果物の権利(著作権)のほか、報告義務や守秘義務、契約更新や契約解除などの条件です。
取引をする相手によって、契約書の内容は異なりますが、業務委託契約書の大まかな項目は共通しています。
- 目的・業務内容
- 報酬・支払い(委託料)
- 契約期間
- 納品方法
- 再委託
- 瑕疵担保
- 知的財産権
- 著作権
- 秘密保持(機密保持)
- 契約更新、契約解除
- 損害賠償
- 禁止事項
- 裁判管轄
- 反社会勢力の排除
- その他
それぞれの内容について、順番に見てみましょう。
目的・業務内容
ここでは、業務委託がどのような目的で行われるのか。
業務内容について明記されます。
報酬・支払い(委託料)
報酬・支払い(委託料)は、業務委託の際「支払われる報酬の金額」が記載されます。
ライター案件であれば、1記事いくら(記事単価)1文字いくら(文字単価)といった委託料が定められます。
また支払い条件として、締め日と支払い日が記載されます。
支払いの時期は、クライアントや発注者によって異なりますが、早ければ納品後数日で支払い、長ければ末締めの翌月末、翌々月末支払いといったケースもあります。
直接のクライアントとの契約の場合、記事の納品後に請求書をこちら側から送付しないと支払いを行わないような旨が書かれている場合もありますので、記事を納品した後の請求方法まで、細かく確認をしましょう。
クラウドソーシングの場合、納品後に支払いの手続きが取られますが、発注側が記事承認しなければ、費用が支払われないなどのトラブルも起こっています。
契約書では、納品後いつまでに報酬が支払われるのか「支払い条件と支払時期」を確認しましょう。
契約期間
ここには「業務委託の期間」が明記されます。
また契約後の、契約更新や契約解除の条件なども合わせて記されます。
ライター案件の場合、単発での契約もあれば、はじめから長期間契約を結ぶケースもあります。
契約期間中、契約期間後の条件も忘れずにチェックしましょう。
納品方法
成果物をどのように納品するのか、メール、共有ファイルへのアップロード、WordPressへの直接入稿、郵送など。納品方法は、クライアントや案件ごとに異なります。
また発注側によっては、納品ファイルの形式(Word、Excel、text)なども細かく指定されます。
再委託
再委託とは発注された側が「一部の業務を第三者に委託できるかどうか」定めることです。
再委託できる場合は「再委託の条件」が記されます。
例えばライターが記事内で使用するイラストやグラフィックを別のフリーランスに委託した場合や、記事の校正作業を別のライターに委託した場合は「再委託」にあたります。
契約内容を確認せず、再委託を行い、発注者とトラブルにならないよう注意しましょう。
(※ 本記事後半で解説する「守秘義務」の項目にも関連します)。
また、注意事項として再委託先の「著作権」についても注意が必要です。
再委託をするときは、再委託先に発注した著作物の利用範囲などについて、自分が契約する内容と差異、齟齬が起きていないか、委託予定先に予めよく確認をしておきましょう。
瑕疵担保期間
瑕疵担保(かしたんぽ)とは、成果物の欠陥やミス(瑕疵)に対応する期間のことです。
瑕疵担保は通常、受託者が無償で行います。
例えば検収後、記事にミスが見つかった場合、ライターは書き直しやテキストの再制作を求められることがあります。
瑕疵担保の期間はいつまでなのか。
多くの場合、1カ月以内に瑕疵担保が定められますが、瑕疵担保期間が長すぎる場合には注意が必要です。
知的財産権
知的財産権とは、知的活動によって生み出された作品や、著作物の権利を意味します。
知的財産権を持つ者は、創作したものを第三者によって勝手に利用されない権利を得ます。
ライターが作成した文章や記事など、著作物の権利が誰の手にあるのか。
納品後の権利は譲渡されるのか、クライアントとライターのそれぞれにあるのか。契約書によって条件は異なります。
知的財産権の中には、著作権、産業財産権などが含まれます(下の図を参照)。
知的財産権とは?(区分ー権利ー対応する法律)
- 著作者の権利ー著作権法
- 著作隣接権ー著作権法
- 特許権ー特許法
- 実用新案権ー実用新案法
- 意匠権ー意匠法
- 商標権ー商標法
- 営業秘密等ー不正競争防止法
- 回路配置利用権ー半導体回路配置保護法
- 育成者権ー種苗法
上の表中にある「著作隣接権」とは、著作物の伝達に重要な役割を果たしている実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められた権利のことで、ライターには直接関わりの無い権利です。
同じく、上の表中にある「特許権」は、特許を受けた発明について一定期間独占的に実施することができる権利のことで、こちらもライターには馴染みの薄い権利になります。
ライター業で大きく関わってくるのは、知的財産権の中でも『著作権』の部分です。
著作権
著作権は、前項の知的財産権で取り上げましたが、知的財産権のひとつ「著作物を財産として保有する権利」のことです。
一般的には著作物の権利は著作者が保有しますが、報酬を受けて記事を納品した場合、クライアントに権利を譲渡するケースが大半を占めます。
譲渡した場合「著作物=著者のもの」では無くなりますが、著者者の人格権(個人の人格的利益を保護するための権利)については譲渡できません。
著作人格権とは、著作者の作品への思い入れや名誉などを守る権利のことで、著作権法第18条、著作権法第19条、著作権法第20条、著作権法第113条6項に記されています。
著作人格権を含む、著作権の理解については、CRIC(公益社団法人著作権情報センター)の資料が参考になります。
参考資料:著作者にはどんな権利がある?(CRIC・公益社団法人著作権情報センター)
秘密保持(機密保持)
秘密保持(機密保持)とは、業務で知り得た情報を他社や第三者に公表しない、秘密を守る契約のことです。
例えば、美容メーカーの新商品についてPR記事を書いていたライターが、発売前の新商品について第三者に秘密を打ち明けたり、他の競合メーカーに新商品の情報を漏らすのが、機密保持契約に違反したことになります。
秘密保持契約は「NDA」といい、秘密保持契約に違反した場合には差し止め請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。
参考資料:秘密保持契約(NDA)を違反するとどうなる? 弁護士が法的な観点から解説(ベリーベスト法律事務所)
契約更新、契約解除
契約を更新する条件、契約を解除する条件について記されます。
例えば、受注をした側が重大な過失や契約違反、個別契約を維持しがたい重大な事由があった場合などに契約が解除されます。
損害賠償
ここには「損害賠償請求の条件」について記されます。
例えば 発注した側が、受注側の行動によって損害を被った場合、損害賠償が請求されます。
損害賠償については、損害賠償額の上限が明記されていない場合が多いです。
この場合は「損害賠償額は、委託金額までとする」などの、上限を設けないと、万が一大きなトラブルに繋がった時に困ることになります。
損害賠償額については、上限を設ける文言を追加してもらいましょう。
禁止事項
契約において、お互いの名誉を毀損しない、損害を被るような行動を起こさないなどの「禁止事項」が記されます。
裁判管轄
裁判管轄(さいばんかんかつ)では、訴訟になった場合、どこの裁判所が管轄するのか明記されます。
通常、発注側の拠点にある裁判所が管轄裁判所として記されています。
裁判管轄については、委託側の本社所在地がある都道府県で指定されることが多いのですが、この場合、契約時に自分と遠い都道府県で指定されてしまうと、大きな負担が生じる可能性があります。
そのような事が起きない場合、自分の近場の裁判所にできるか交渉をしてみましょう。
参考資料:裁判所の管轄区域 | 裁判所
反社会勢力の排除
反社会勢力の排除とは、お互いが反社会勢力(暴力団、暴力団体関係者、政治活動団体)とのつながりが無いことを確認する項目です。
その他
業務委託契約書は発注側の自由度が高いため、ここまで紹介した項目以外にも、新たな項目が追加される場合があります。
受託側としてあまりに不利な内容がないか、業務内容に誤りはないか、責任が重すぎないか。
少しでも不安や違和感がある場合は、業務委託契約書の内容について、不安な点を法律事務所や、信頼できる専門家に相談しましょう。
業務委託契約書を結ぶ〜業務開始までの流れ
ここでは、企業と『契約書を結ぶまでの流れ』をまとめてみました。
企業と『契約書を結ぶまでの流れ』 |
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STEP1 |
業務の提案、見積もり |
STEP2 |
契約条件の交渉 |
STEP3 |
業務委託契約書の作成 |
STEP4 |
契約の締結 |
STEP5 |
業務開始 |
STEP1〜5の流れについて、解説します。
STEP1:業務の提案、見積もり
まず業務の提案を行います。
発注側から依頼された場合も、納品物などの条件(例:料金や納期)を確認し、見積もりを出します。
STEP2:契約条件の交渉
STEP1の内容で合意できたら、「契約条件の交渉」に進みましょう。
業務委託契約書では、どのような条項が記載されるのか、STEP1の内容を元に【契約期間、契約日、報酬や経費、クライアントの連絡先】など。
業務委託契約書の作成前に確認してください。
また契約内容について、ライター側も要望などがあれば、契約書の作成前に提案してください。
業務委託契約書は発注する側だけで無く、受注する側も「合意できる条件」にする必要があります。
STEP3:業務委託契約書の作成
STEP1とSTEP2の合意内容を元に、業務委託契約書の作成を行います。
契約内容に誤りが無く、不利な条件の契約内容が書かれていないか。
時間をかけてよく内容を精査してください。
STEP4:契約の締結
業務委託契約書の内容に合意できれば、契約を締結します。
契約書は通常二通作成し、一通は発注する側が保管、もう一通は私たち受注する側が保管をします。
STEP5:業務開始
契約書を交わしたら、いよいよ業務委託契約書の内容に従って、業務を開始してください。
納品物や納品日について変更がある場合は、速やかに発注者側に連絡をしましょう。
また交わした業務委託契約書は、最低でも5年間以上保管をしてください。
契約内容や業務内容の変更など、何かあった場合すぐに書類が取り出せるよう、契約書専用のファイルをつくって保管しておくと安心です。
業務委託契約書の交渉ポイント
業務委託契約書の交渉ポイントは、次の通りです。
- 賠償責任の内容
- 支払い条件、報酬の条件
- 瑕疵担保期間
それでは、ひとつずつ解説していきます。
賠償責任の内容
賠償責任の内容は、業務委託契約書で最も気をつけたい交渉ポイントのひとつです。
例えば契約書によっては、記事の納品後「無制限の賠償責任事項」が書かれているようなケースもあり注意が必要です。
万が一無制限の賠償責任について同意をしたら、ライター側は制限無く、相手から損害賠償を請求されることになります…!
ライターの業務形態は【委任契約、準委任契約】のいずれかが多く、報酬以上の賠償責任を負うのは「おかしい」と考えるのが普通でしょう。
しかし契約書によっては、発注側が重いペナルティを科したり、賠償責任をライター側だけに負わせるようなこともあります。
基本的に「賠償責任は受注した金額を上限とする」です。
賠償責任の内容は、自分に不利な条件や重すぎる責任が負わされていないか。
自分の身を守るためにも、何度も目を通して確認しましょう。
支払い条件、報酬の条件
次に「支払いの条件」ですが、納品物に対して、報酬はいくら支払われるのか。
文字単価なのか、記事単価なのか、報酬の条件を確認しましょう。
中には記事代金が支払われず、記事のPV数や著作物のダウンロード数に応じた「成果報酬」しか支払われない場合もあります。
成果報酬の場合、成果がなければ報酬は0円のままです。
またダウンロード販売を目的とした記事を作成し、権利を譲渡した場合、売り切りなのかダウンロード数に応じた報酬がもらえるのか
(例:あらかじめ決めた配分率で利益を分け合うレベニーシェアなど)。
必ず支払い条件を確認してください。
レベニューシェア型契約とは
“支払い枠が固定されている委託契約ではなく、成功報酬型の契約形態のこと。発注側と受注側がリスクを共有しながら、相互の協力で生み出した利益を、あらかじめ決めておいた配分率で分け合う。最近では、IT企業間の契約で多く見られる。”
出典元:レベニューシェア型契約 (IT用語辞典|大塚商会)より一部抜粋
そして「支払い時期」ですが、締め日と支払日、納品後「検収期間は何日なのか」いつ振込がされるのか。
支払い日や振込手数料など、振込の条件も合わせて確認します。
納品から支払いまでの期間が長すぎる場合、相手が支払いをしてくれるのか、不安になるライターも多いでしょう。
仕事をする場合「信頼できる相手としか取引しない」ようにしてください。
取引が不安な場合は、大手クラウドソーシングを通し、補償が受けられる条件で仕事を受けると安心です。
また最近では、ライターやフリーランスに向けて請求書買取などのサービスも増えています。
例えば大手GMOは、フリーランスの請求書を買取し、支払いまでの期間「資金がショートしない」よう現金を振込むサービス『FREENANCE(フリーナンス)』をはじめました。
契約条件によりますが、支払いまでの期間が長すぎる場合は、こうした「請求書買取サービス」の利用も検討する良いでしょう。
上のフリーランスについては、無料で登録でき、最高5,000万円のあんしん補償(納品物の保険)が受けられます。
参考リンク:FREENANCE(フリーナンス)
瑕疵担保期間
3つ目の瑕疵担保期間ですが、納品をしてから1年〜2年経ってから「○○の記事を直してほしい」と言われても、テキストがどこにあるのか。修正作業ができない場合もあるでしょう。
瑕疵担保期間が長すぎるのは、「いつ修正がかかるか分からない」という不安要素となり、ライターにとって精神的負担となりかねません。
トラブルを避けるためにも、瑕疵担保期間は平均1カ月程度になるようにします。
また瑕疵担保期間が長すぎる場合は、クライアントと交渉してください。
競合避止義務とは?
競合避止義務(きょうごうひしぎむ)とは、競合する企業や組織に所属したり、独立することを禁じる義務のことです。
競合避止義務とは
“「競業避止義務」とは、労働者は所属する企業と競合する会社・組織に就職したり、競合する会社を自ら設立したりするなどの競業行為を行ってはならないという義務のことです。”
出典元:競業避止義務 (日本の人事部)より一部抜粋
例えばAというライター事務所で働いていた人が、競合するライター事務所Bに移籍した場合、A事務所にとっては利益が損なわれますよね。
また2021年1月には、楽天モバイルの社員が前職のソフトバンクから5Gに関する機密情報を持ち出し逮捕された事件もありました。
参考資料:元社員逮捕のソフトバンク、「営業秘密がすでに利用されている可能性」指摘 楽天モバイルは否定(ITmediaビジネスONLiNE)
今回の逮捕容疑は「不正競争防止法違反」ですが、営業秘密の侵害は国内だけでなく海外(国家間)でも起こっています。
こうした機密情報を守り、企業の損害を防ぐ目的で、競合避止義務が結ばれているのです。
ただ競合避止義務は、同じ業界に転職ができない等、職業選択の自由を不当に拘束する危険性も秘めています。
実際、競合避止義務の考え方については賛否両論あり、合理的範囲を超えた拘束については裁判所が「公序良俗違反として無効」判決を下したケースもあります。
ライターの場合、複数のクライアントと仕事をすることが多いでしょう。
キャリアにおいて、競合避止義務について解釈や判断が難しい場合は、労働問題に強い、法律事務所や専門家に相談をしてください。
下請法は、個人事業主を守る法律です
下請法(したうけほう)とは、資本力の大きな企業がライターやフリーランスなど個人事業主に対し、発注した業務の代金を不当に減額したり、支払いを遅らせる、不当な返品を行う等の行為を禁止する法律のことです。
下請法が適用されるのは【製造委託、修理委託、情報成果物製作委託、役務提供委託】で、ライターの場合は情報青果物製作委託において「下請法」が適用されます。
参考資料:下請法の概要(公正取引委員会)
業務委託契約書で「必ず」見ておきたいポイント!
ここまで業務委託契約書と契約締結の流れ、関連する法律を紹介しましたが、業務委託契約書で「必ず」見ておきたいポイントをまとめてみました。
- 契約期間
- 報酬と諸経費
- 守秘義務とポートフォリオ
- 違約金
- 競合避止義務の有無
- 業務委託契約の解除
それぞれの内容を詳しく解説します。
契約期間
契約期間には、契約開始日と契約終了日が明記されます。
単発の案件であれば更新はありませんが、長期契約の場合、更新条件も合わせて記載されます。
例えば、契約の自動更新については「期間満了日の〇〇カ月前まで、当事者から意思表示なき場合、同じ条件でさらに〇〇の期間更新される」といった条件が盛り込まれます。
報酬と諸経費
報酬と諸経費ですが、記事に対する報酬がいくらなのか。
ライターの平均的文字単価は1円ですが、記事単価の場合「1記事書くのに何時間かかるのか」1時間あたりに書ける文字数を計算しましょう。
記事単価がたとえ1万円だとしても、指定された文字数が30,000文字の場合、1文字あたりの文字単価は0.3円になります。
そして1時間にかける文字数が600文字だとすると、時給200円で働く計算になります。
これでは、アルバイトやパートの最低賃金を下回ってしまいますよね…。
記事報酬で仕事を受ける場合には、必ず一時間で書ける文字数と1文字あたりの文字単価を計算し、最低賃金を下回らないよう注意してください。
またライターによっては、参考文献や関連書籍が必要な場合や、インタビュー記事の作成については交通費や通信費などが必要です。
経費はどこまで出してもらえるのか、業務委託契約書を交わす前に必ず確認しましょう。
守秘義務とポートフォリオ
ライターの仕事をしていると、クライアントから「過去の記事サンプルが欲しい」と求められることがあります。
しかし過去納品した記事の権利が、以前取引をしたクライアントの手に渡っていたら、契約違反になってしまいます。
また業務委託契約書に書かれていた、守秘義務を破ることにもなりかねません。
筆者の場合、ポートフォリオなどの作品提示やサンプル提示については、毎回サンプルを作成しお客様に渡すようにしています。
もちろんサンプル記事作成に時間は掛かりますが、守秘義務や秘密保持契約を守るのに、必要なプロセスだと考えています。
違約金
違約金とは、受注側の責任によって契約が破棄された場合など、債務不履行について発注側に支払う金銭のことです。
残念ながらフリーランスの中には、仕事を受けておいて途中で投げ出す人もおり、正当な理由無く業務が履行されないことも珍しくありません。
こうした事態を防ぐために、企業やクライアントは一定の違約金を定めて、納品が滞らない(不当に放棄されない)ようにしています。
もちろん病気や怪我、天災など「予期せぬトラブル」で記事やコンテンツが納品できないこともあるでしょう。
また副業で仕事をしている方は、本業が忙しくなり予定日に納品できないケースも考えられます。
納品が遅れた場合、どのようなペナルティや違約金があるのか。
違約金の有無は必ず確認しましょう。
競合避止義務の有無
競合避止義務については、既に解説をしましたが、業務委託契約書の中に競合避止義務が定められているのか。
守秘義務や機密情報の扱いと合わせて確認しましょう。
業務委託契約の解除
依頼側の会社が倒産をしたり、受注側が重大な契約違反や契約を維持しがたい重大な事由があった場合には、業務委託契約が解除されます。
また、本記事冒頭でふれた【請負契約、委任契約、準委任契約】の三種類についても、この業務委託契約の解除条項によって、その類いの契約書になるのか左右されます。
条件が良いメディアへ移りやすくするための布石として、委任契約、準委任契約向きにしたい場合は、「互いにいつでも解約できる」状態するなど、契約内容によって契約書の性質が決まるので、よく検討してください。
こんな契約書には要注意!
最後にライターが知っておきたい、危険な「契約書」の例について紹介します。
注意1:ダウンロード販売の知的財産権
例えばコンテンツを作成し、ダウンロード販売する場合の知的財産権はどうなるのか。
案件毎に知的財産権の扱いは変わってきます。
記事の中盤で「レベニューシェア」について解説しましたが、沢山ダウンロード販売されヒットしたにもかかわらず、著作者の権利が企業側に譲渡され、著作者の取り分が少なすぎるようでは費用対効果に見合いません…。
作成された契約書をチェックし、納得できない内容や訂正してほしい項目があれば、できるだけ早い段階でクライアントに交渉してください。
注意2:契約書がもらえない場合
「契約書を作成するのが面倒」という理由で、契約者を交わさないクライアントがいます。
契約書がなければ、どのような条件で業務を委託されたのか証拠が残りません。
また納品したにも関わらず、相手が未払いで逃げてしまった場合には、契約書がなければ不利になります。
クライアントが契約書を作成してくれない場合は「仕事を断る」のが正解ですが、業種や業界によっては(慣習として)契約書無しで仕事を進めるケースもあります。
WEBコンテンツの場合、基本的にクライアント側が業務委託契約書を用意してくれますが、「業務委託契約書なし」で仕事を受けた場合は、後々トラブルにならないよう、契約書の作成をお願いしましょう。
注意3:専属マネジメント契約は拘束が多い
ライターの中には、専属契約というかたちで専属契約料を受けとり、毎月契約報酬を受けとるパターンもあります。
専属マネジメント契約の場合、他の仕事が受けられないなどの「縛り」があります。
良いクライアントとの長期契約であれば、安心して仕事に専念できますが、悪質な業者と契約を結んだ場合、重すぎる責任を負わされて、安い賃金で働かされるリスクもあります。
専属マネジメント契約は、安定した報酬が得られるメリットもありますが、一旦契約をすると契約期間中は仕事の自由が効かないので注意してください。
なお専属マネジメント契約の注意点については、以下の記事が参考になります。
参考資料:専属マネジメント契約を中途解約できるか(新銀座法律事務所|法律相談事例集データベース)
業務委託契約書の内容は、時間をかけて確認した上で締結する
今回はライターが知っておきたい業務委託契約書について、詳しく解説しました。
ライターになりたい人が増えていますが、比例するように契約トラブルが増えています。
あえて複雑な言い回しで様々な条項の文言に関連する縛り条項を混ぜ込ませている契約書が最近は増えています。
依頼されてきたメディアの知名度でテンションが上がり、よく確認をせずに迂闊に契約をしないように注意しましょう。
WEBライターを目指す方、すでにWEBライターとして活動している方も、厄介なトラブルに巻き込まれないよう、業務委託契約書の見方や関連する法律について理解を深めておきましょう。